研究開発項目1「社会における福祉と主体性の特定と更新」
研究開発課題 1-1
「規範経済学手法による福祉と主体性関連ワード絞り込み」
研究課題推進者(PI)
後藤 玲⼦
帝京⼤学 経済学部 教授
詩人エミリー・ディキンソンほど、外出の喜びを広く深く捉えた人はいなかった。「歓喜とは出て行くこと/内陸の魂が大海へと、/家々を過ぎ――岬を過ぎ――/永遠の中へと深く――」。
実際には彼女は、雪深い地で家から一歩も出ることなく半生を過ごしたという。本研究課題の目的は、個々人の<出入り自由な>ケイパビリティを捉えることにある。個人のケイパビリティは、本人が選ぶことのできる福祉(well-being)の束と、主体的に選ぶことを妨げられない自由から構成される。はたして、人は地域において、施設において、組織において、どれだけ出入り自由であり得るのだろうか。いつでも外に出かけられる、いつでも家に戻って来られる、安心して出入りできるケイパビリティを享受しているのだろうか。個人間での相互性ケイパビリティ、都市全体のシティ・ケイパビリティの測定方法の開発をも試みたい。
研究開発課題 1-2
「計算社会科学手法による福祉と主体性の主要軸の特定」
研究課題推進者(PI)
瀧川 裕貴
東京大学 大学院人文社会系研究科 准教授
福祉と主体性の概念は規範経済学において精緻に理論化されてきた概念であると同時に、人々が自己評価や道徳的評価に日常的に用いる概念でもある。そのため、理論的に提案された概念は、現実社会での用法と照合して、再検討される必要がある。現実社会での人々の福祉や主体性についての考え方を知るためには、従来社会科学で用いられてきたサーベイに加えて、計算社会科学の方法により、大規模テキストを分析することが有効である。
言葉の用いられ方には人々の意識的な考えはもちろん、必ずしも意識されない考え方や思考法が反映されている。これらは人々の実践や行為と深く結びついている。そこで本プロジェクトでは、国会図書館の全文データや SNS データなどに対して大規模テキスト分析を用いることで、現実社会の人々の生きた考え方、思考様式,ひいては行為や実践を捉えることを目指す。また、ヴィネット型テキスト実験により、福祉や主体性のいかなる構成要素が人々の道徳的評価を導き、さらには行為を促すのかについて因果的メカニズムの解明をも試みる。