研究開発項⽬3「ヒト脳指標による喜びと志の個⼈間⽐較技術開発」

研究開発課題3-1
「ヒトMRIによる喜びと志の脳指標取得と個⼈間⽐較」

研究課題推進者(PI)

松森 嘉織好

⽟川⼤学 脳科学研究所
嘱託研究員

私たちの住む社会を自由で公正なものにしていくためには、各政策の集団・社会レベルでの「良さ」を測る必要がある。しかしこのような指標は、異なる人びとのウェルビーイングを比較する方法がないと、うまく作れないことが知られている(アローの不可能性定理)。また、行動データのみに基づく古典的な手法では、ウェルビーイングの個人間での比較はできないとされている。
本研究では、多様な生理指標やfMRIによる脳計測、最新の機械学習によるデータ解析を組み合わせて、ウェルビーイングを個人間比較可能なかたちで測定する手法を提案する。人文・社会科学における既存のウェルビーイング研究とのつながりを強く意識することで、規範的に意義のある自然科学的手法の構築を試みたい。
個人間比較可能なウェルビーイングの指標は、幅広いシチュエーションでの利用が見込まれる。本プロジェクトでは特に、哲学者、社会科学者、工学者、神経科学者の連携により、スマートシティにおけるモビリティ政策の評価への応用を目標としている。

研究開発課題3-2
「ヒトMEGによる喜びと志の神経回路ダイナミクス」

研究課題推進者(PI)

松元 まどか

国立大学法人京都大学
大学院医学研究科附属脳機能総合研究センター 
特定准教授

MEG (magnetoencephalography)は、神経細胞活動に伴って発⽣する磁界(磁場)の強さそのものを頭⽪上から⾮侵襲的に計測する⼿法である。近年は脳深部を含む広範な脳領域からの信号計測が可能となっており、「喜び」・「志」の個⼈間⽐較に有⽤である。本研究課題では、MEGを⽤いてヒトの「喜び」・「志」の脳指標⽣成の脳回路ダイナミクスを⾼時間分解能で調べる。ヒトにおける「喜び」と「志」の脳指標が⽣成される神経回路システムを、ヒトMRIおよびヒト神経細胞活動計測による研究課題と連携することにより解明する。そして「喜び」と「志」の神経回路システムの詳細な動作メカニズムを、⾮ヒト霊⻑類や齧⻭類を⽤いる研究課題と連携することにより因果性を担保しながら解明する。
さらに、⼈⽂・社会科学分野の成果に基づく「喜び」と「志」の発⾒を⽀援するモビリティ仮想体験システムを他の研究課題と共同で開発する。これを⽤いて、脳活動から定量化した「喜び」と「志」の集約に基づく政策指標の妥当性を、⾃然科学的に基礎付ける。多様な⼈々を含むコミュニティにおいて「喜び」と「志」の脳指標の集約を実現するため、気分障害患者やギフテッドの特徴を有する⼈々(発達障害グレーゾーン)も対象とする。

研究開発課題3-3
「メカニズムデザインおよびヒト神経細胞活動による喜びと志の計測」

研究課題推進者(PI)

Ralph Adolphs

California Institute of Technology Bren Professor of
Psychology, Neuroscience, and Biology


喜びや志に関わると考えられる前頭葉や側頭葉のさまざまな脳領域に電極が埋め込まれたてんかん患者から神経細胞活動を記録・解析し、各脳領域に喜び・志の脳指標⽣成に関わるどのような情報がどこまで分解されて表現されているかを明らかにする。得られる結果を研究開発課題3-1および3-2に提供し、喜び・志の脳指標の精緻化、関連する脳回路ダイナミクスのメカニズム解明に資する。さらに研究開発項⽬4で得られる霊⻑類の脳における効⽤表現と⽐較することにより、ヒトの喜び・志に特異なメカニズムの有無を検討する。